CRM の誕生と発展の歴史 ~ CRM 3.0 で実現する主客一体のおもてなし ~

松原晋啓

1990年代後半から情報化社会への転換に合わせるかのように生まれて来た「CRM(顧客関係管理)」は長らく経営戦略としての本来のCRMとITにおけるCRMシステム(SFAやCTI、マーケティングオートメーション等のサブシステム)として独立した発展をしてきました。
しかしながら、近年ITの飛躍的な進化に伴い、分かたれた道が三世代目を迎えたCRMによって統合することが出来るようになりました。
本項では、第三世代CRM(CRM 3.0)に至るまでのCRMの歴史についてご紹介します。

CRMモデルとその発展

CRMモデルとその発展CRMモデルと世代の関連図

CRMはERPやSCRMと異なり、経営戦略として生まれて来たため、顕在化したベストプラクティスのようなものは持たない(企業や団体によってサービスは異なる前提)ということと企業の永続的発展のために未来を創造する時間軸を持ったコンセプトモデルになります。
そのため、これまでは紆余曲折様々な試行錯誤をしながら発展して来た歴史を持っています。

ここではその歴史を一度整理し、順番に説明していきたいと思います。

【CRMの歴史と世代】
・CRM 1.0(第一世代CRM:ベストプラクティス型CRM)・・・90年代後半のCRM登場と共に生まれたSFAやMAといったサブシステム個別最適化のCRMシステム

・CRM 2.0(第二世代CRM:プラットフォーム型CRM)・・・2006年にCRM 1.0に分かれたサブシステムを統合した統合型CRMシステム

・CRM 3.0(第三世代CRM:パーソナライズドCRM)・・・2016年のAIの発展に伴い、顧客インサイトの壁を突破してインプリシットの取込みと全体最適化の実現が可能となったCRMの最終形にして本来の姿

下記からは世代別に説明していきます。

CRM 1.0:ベストプラクティス型CRM

CRM は1990年代後半に大量生産・大量販売を前提とした工業化社会の「マースマーケティング」から、消費経済の成熟化によって消費者ニーズの多様化に対応するために情報化社会による「One to One マーケティング」の必要性が高まったことによって生まれた「リレーションシップマーケティング(RM)」に端を発する組織の全体最適化を目指した経営戦略として注目されようになりました。同時に、インターネットの爆発的普及により、CRMの“一部”がシステム化される(以前はERPパッケージの一部の顧客データストアで、後にSFAやMA、CTIと言った部分最適化のサブシステムに発展)

CRM 2.0:プラットフォーム型CRM

長らく本来の目的とは異なり、個別の業務最適化を行うシステムとして発展してきたCRMシステムですが、2006年のITテクノロジーの進化により、ビックデータやミッションクリティカルにおける活用が可能となったことで、CRMのサブシステムを統合化することが可能となります。
それがプラットフォームをベースとするCRMです。

このCRMの発展により、これまではセールスフォースオートメーションもマーケティングオートメーションもサービスマネジメントも個別システムとして構築し、マスターデータとして管理している顧客マスターとそれぞれ連携する形となっていたものが、1つのシステム上に統合することが可能となったわけで、企業や団体のあらゆる担当者がお客様のデータをリアルタイムに参照出来るので、お客様から不満に対して大きく前進することが出来るようになりました。

CRM 3.0:パーソナライズドCRM

CRMシステムとしての発展はCRM 2.0によって統合され、本来のCRMに近い領域までカバーすることが出来るようになりましたが、それはまだ"形式知(明示知:エクスプリシット)"のデータとしてであり、CRMが本来必要とする"暗黙知(インプリシット)"は取り込める状態ではありませんでしたので、上記CRMモデルにおける「顧客インサイト」を取り込めるレベルにはなかったのです。
しかし、2016年にビジネスインテリジェンス(BI)の発展や人工知能(AI)が実用化されたことにより、システムとしても"形式知:カスタマーエクスペリエンス(CX)"に加えて、コミュニケーションの8割以上を占める最も大事な"暗黙知:インプリシットカスタマーエクスペリエンス(ICX)"を取り込めるようになり、やっと「顧客インサイト」の壁を突破することが出来るようになりました。

これにより、分かたれていた道が1つになり、戦略とITが融合した本来のCRMとしてお客様1人1人まで見える(個客化:パーソナライゼーション)ようになりました。
これがCRMの最終目的地である「CRM 3.0(第三世代CRM:パーソナライズドCRM)」になります。

このCRM 3.0の登場により、これまで矛盾を伴っていたために成果が出にくく、8.5割以上が失敗してると言われていたCRMにおいても、正しい活用とその本領を発揮することが出来るようになりました。


著者

松原晋啓

アクセンチュア等でのSE、アーキテクト、コンサルタント、インフラジスティックスでのエバンジェリスト(Microsoft MVP for Dynamics CRM(現 Microsoft MVP for Business Solutions))、マイクロソフトでのソリューションスペシャリスト(Dynamics CRM製品担当)を経て、現在はDynamics CRMを専門に扱うサービスチームを率いて大小様々の企業の事業立上げを支援、その傍らでCRMエバンジェリストとしてイベントや記事寄稿を通じてマイクロソフトのテクノロジーや製品の普及に努めている。
また、プラットフォーム型CRM(xRM)の第一人者やCRMの専門家としてインタビューも受けている。