定期便から「食の総合EC」へ 4000万食突破の三ツ星ファームが実践するデータ戦略の核心

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ECのミカタ編集部

株式会社イングリウッド リテールコンシューマ事業部 三ツ星ファームチーム 三ツ星ファームブランドマネージャー 本間悠也氏

株式会社イングリウッドが運営する冷凍宅配食ブランド「三ツ星ファーム」は、2025年11月にサービスを全面的にリニューアル。それまでのおかずプレート中心の定期便サービスから、食品総合ECへの転換を本格化させ、2026年1月末には累計出荷食数4000万食を突破した。

原材料費や物流費といった様々なコスト上昇によって食品EC業界全体でその運営難易度が高まるなか、「三ツ星ファーム」はどのように意思決定を行い、商品と顧客体験を磨いてきたのか。顧客の声とデータにもとづいて進化を続ける、その具体像をひも解く。

●本記事は2026年3月開催「ECのミカタ カンファレンス」で行われた株式会社イングリウッド 本間悠也氏のセッションをレポートしたものです

EC企業はなぜ食品領域に参入したのか――「約9万食」に向き合う

EC企業はなぜ食品領域に参入したのか――「約9万食」に向き合う画像提供:株式会社イングリウッド(カンファレンス登壇資料より ※以下同じく)

三ツ星ファームのブランドコンセプトは「毎日のごはんに感動を」。一生で食べる食事の数は約9万食とも言われる。何気ない毎日の食事だからこそ、おいしくて身体に良く、食べるのが楽しみになるものであるべきだという思想が、サービスの出発点となっている。

運営するイングリウッドは、ECの黎明期から楽天市場やAmazonといったモールでの販売、自社PBブランドの企画、収益予測、Webマーケティング、在庫管理、物流までを一気通貫で手がけてきた企業である。そのノウハウを凝縮した食品事業が三ツ星ファームだ。

2020年のコロナ禍のなかで事業構想をスタートし、2021年6月にサービスをリリース。共働き世帯の増加、女性就業者数の増加、高齢者人口の増加、世帯あたり人数の減少といった社会変化を背景に、「中食」と呼ばれる日常食の通販マーケットが急拡大するタイミングを捉え、食品ECという難易度の高い分野に参入した。

本間氏は当時の問題意識をこう振り返る。

「たくさんの飲食店があり、スーパーやコンビニでも食品が手に入り、デリバリーも普及している中で、事業を成立させるには付加価値が欠かせないと考えました。レストランでおいしいものを食べる、自炊して体に良いものにこだわる、コンビニで手軽に済ませる――この3つをすべて両立した食品はなかなかありませんでした。だからこそ、おいしい・体に良い・簡単便利という価値をすべてかなえることを軸に据えました」

現在のユーザー比率は女性60%、男性40%。30代(27%)を中心に、20代・40代・50代・60代以上まで幅広い年代に利用されており、「老若男女問わず毎日に欠かせない日常食」というコンセプトが実際の顧客構成にも表れている。

「おいしい・体に良い・簡単便利」をかなえる品質設計

三ツ星ファームの「おいしい」を支えるのは、140種類以上という豊富なメニューと、素材の味をそのまま急速冷凍することで実現する「冷凍食品と思えない本格感」だ。東京・四ツ谷の和食割烹「鈴なり」の総料理長、村田明彦氏が監修として携わり、プロの視点からクオリティを担保している。

「身体に良い」については、“三ツ星基準(カロリー350kcal以下/糖質25g以下/たんぱく質15g以上)”を設定(※一部商品を除く)。管理栄養士とともに、おいしさと栄養価の両立を非常に細かくすり合わせながら開発している。「どれを食べても健康でおいしい」という水準を保つことが、日常食として習慣化してもらう上で最も重要という認識だ。

「簡単便利」の追求も手を緩めない。商品そのものは電子レンジ約5分で食べられる設計であることに加え、2024年3月には自社モバイルアプリを開発・提供開始し、注文の手間を最小化した。さらに顧客の声から、お子さまメニューや、包丁もまな板も使わずに作れる「お手軽鍋セット」、家族には手作りを出したいが買い出しには行く時間がない層向けのミールキットなども展開している。

「元々の冷凍弁当にとどまらず、同じ顧客層が求めている商品には積極的にラインナップを広げてきました」(本間氏)

現在の販売チャネルは9割以上が自社サイト・アプリ。加えて、一部スーパーやコンビニエンスストアなどへの卸販売も展開している。2024年には女優の飯豊まりえをブランドキャラクターに起用したほか、SHIBUYA TSUTAYA SHARE LOUNGEでの提供を開始し、体験施策なども通じて認知拡大を進めている。

画像提供:株式会社イングリウッド

なぜ「日々の食事」に選ばれるのか? 情緒的価値が生む継続利用

三ツ星ファームの愛用者について、本間氏はこう語る。

「これまで事業をやってきた中で、皆さまが食事に関する課題や悩みを抱えていて、それを1日2回、3回と考えながら日々を過ごしている。その負担の大きさが見えてきました。利用者のライフスタイルの中でどう取り入れていただくかが、サービスの利用頻度と深く結びついていると感じています」

三ツ星ファームの愛用者には大きく2つの傾向があるという。140種類以上のメニューの中に自分の「推しメニュー」を持っていること、そして利用シーンや目的・用途が明確に決まっていることだ。例えば、職場でのお昼や、主婦の方の自分用など、それぞれの生活にフィットした使い方が定着している。

「私たちが当初想定していなかった使い方も含めて、その人なりの食事ルールを持っている方ほど、生活にフィットしています」(本間氏)

こうした声を積み重ねる中で見えてきた提供価値は、「高付加価値」「日常食」「小さな幸せ」の3つに集約される。栄養補給の手段にとどまらず、食べるときの感動や驚き、季節を味わうといった情緒的価値こそが、日常食としての継続利用を生む源泉となっている。

評価★2.6→★3.75。Web的PDCAを商品開発に生かす

三ツ星ファームが他の食品ブランドと一線を画すのが、EC事業者ならではのデータ活用による商品改善だ。

「店舗で商品を売るだけでは、お客様がその商品やサービスにどんな感想を持ったかを一回きりで捉えるのは難しい。我々はWebでデータを収集できるから、顧客の声をもとに改善点を洗い出し、すぐリニューアルに移れます」(本間氏)

その象徴がグラタンの改善事例である。「水っぽい」「味がぼやけている」といった評価をもとに、水分が出にくいよう食材を見直し、味付けのバランスを調整するなど、MD担当・管理栄養士・製造会社が連携して改善を実施。約半年でリニューアルを実行し、2025年12月の再発売後には評価が★2.6から★3.75へと大きく向上した。

WebマーケティングのPDCAを食品開発に持ち込むことで、顧客満足度を継続的に引き上げていく。この“Web的改善サイクル”が、同社の競争優位を支えている。

食の総合ECへ、食事の悩みに応える三ツ星ファームのリニューアル戦略

こうした顧客データと市場認識を背景に、三ツ星ファームは、2025年11月から大規模なサービスリニューアルを順次行っている。「食品総合ECサイトを目指す」という方針を対外的にも打ち出した。

リニューアルの柱は2つ。第一に商品カテゴリの拡張である。従来のおかずプレートを軸にしながら、鍋セット、ホットスナック、クリスマス商品(季節限定)、ミールキット、パスタ、麺シリーズ、カレーと、毎月新カテゴリを投入。朝から晩まで、あらゆる食シーンに対応できるラインナップへと拡張している。

第二に購入方法の柔軟化だ。従来は7食・14食・21食の定期コースのみだったが、リニューアル後はコースを選択した上で1食単位での追加や単品購入が可能となった。定期便と同梱することで送料も抑えられ、「見つける・選ぶ・試す」といった購買体験の幅が広がっている。

これにより、「定期的に届くサービス」から「選んで楽しむEC」へと進化しているところだ。

本間氏は今後の展望を次のように語る。

「今後も、高付加価値の日常食を軸に、お客様の声や購買データによりブランドとしての提供価値を磨き込み、日常の食事に対する課題を解決する商品の利用を提案していきたいです。最終的には、お客様の毎日に欠かせない食の総合ECサイトとなって、用事がなくてもなんとなくのぞいてみようというサイトを目指していきます」

冷凍弁当の定期便からスタートし、「顧客の声」と「データ」の双方の観点から進化してきた三ツ星ファーム。その取り組みは、「顧客の課題を解決する」というECの本質に向き合う挑戦でもある。

4000万食という実績を積み上げたブランドが、定期便モデルを超えて「食の総合EC」へと進化していくストーリーは、まだ続いている。

本間 悠也
株式会社イングリウッド リテールコンシューマ事業部 三ツ星ファームチーム 三ツ星ファームブランドマネージャー
2016年サイバーエージェントに新卒入社。広告代理部門にて、WEB広告の運用や新規顧客向け営業を経験。2019年株式会社AbemaTVに出向し、総合編成本部 編成局長に就任。事業・コンテンツ戦略の設計や予算策定等の業務に携わる。2022年、株式会社イングリウッドにジョインし現在は新規事業開発を行う傍ら、食のD2C「三ツ星ファーム」の事業責任者を務める。

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