サン・クロレラ高裁判決で見えた差止請求権の限界

木川 和広

【連載コラム】これだけはおさえておきたいECの法律問題
アンダーソン・毛利・友常法律事務所 弁護士 木川和広

第13回:【4月1日スタート】景品表示法の課徴金制度(下)
http://ecnomikata.com/ecnews/strategy/8256/

新しい解釈を示した地裁判決

昨年1月、京都地裁は、サン・クロレラ販売が日本クロレラ療法研究会の名義で配布していた日刊新聞の折り込みチラシについて、消費者団体の請求を認めて、チラシの配布を差し止める判決を下しました。日本クロレラ療法研究会のチラシには、クロレラに関して、「病気と闘う免疫力を整える」「細胞の働きを活発にする」「排毒・解毒作用」・「高血圧・動脈硬化の予防」「肝臓・腎臓の働きを活発にする」などの医薬品的な効能効果があると記載されていました。

京都地裁の審理において、サン・クロレラ販売は、「チラシには、『クロレラ』や『ウコギ』といった一般的な原材料の記載はされているものの、商品名の記載がないから、サン・クロレラ販売の商品の内容を表示するものではない。」と主張しましたが、京都地裁は、これがサン・クロレラ販売の商品に関する優良誤認表示に当たると判断しました。

また、サン・クロレラ販売は、「日本クロレラ療法研究会が取得した個人情報は、サン・クロレラ販売から独立して管理されているから、両者は別の組織だ。」と主張しましたが、裁判所は、サン・クロレラ販売が研究会の広報活動費用を全て負担していることや、研究会に資料請求をすると、研究会の資料のほかにサン・クロレラ販売の商品カタログや注文書が送付されてくることなどを挙げて、研究会がサン・クロレラ販売の宣伝広告を行う一部門に過ぎないと判断しました。

この判決については、下記URLのコラムで解説していますので、更に詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
https://ecnomikata.com/ecnews/backyard/7358/

差止の必要性に関する高裁判決の判断

サン・クロレラ販売は、チラシが優良誤認表示に当たるという地裁の判断やチラシの配布主体がサン・クロレラ販売であるという地裁の判断を不服として控訴しました。この控訴に対して、大阪高裁は、今年2月25日、地裁の判決を取り消して、消費者団体側の請求を棄却する判決をしました。

消費者団体側は、大阪高裁の判決を不当判決だとして上告したようですが、高裁判決の内容を見ると、チラシの配布そのものを適法だとしたわけではないようです。判決を読むと、高裁は、チラシが優良誤認表示に該当しないと判断したのではなく、医薬品的な効能効果を記載したチラシは既に配布が中止されているから差し止めるべき対象が既に存在しないと判断しています。また、消費者団体側は、サン・クロレラ販売がチラシの優良誤認該当性を争っている態度からすると、今後、同様のチラシが配布されるおそれがあるから、現にチラシが配布されていないとしても差止を認める必要性があると主張しましたが、高裁は、サン・クロレラ販売が現在は問題のある表示が含まれないチラシを配布しており、今後、問題のあるチラシを一切配布しないと明言していることを理由に、差止の必要性はないと判断しました。

配布主体に関する高裁の判断

一方で、高裁は、平成26年6月以前の研究会チラシの配布主体はサン・クロレラ販売であったと判断して、消費者団体側の主張を認めています。研究会を立ち上げて成分の効能効果を宣伝し、そこから商品に誘導するいわゆる研究会商法は、長年にわたって薬事法による摘発を免れるための販売方法として健康食品業界で広く用いられてきましたが、今後、このような方法は、景表法による差止の対象になり得ることが高裁でも認められたわけです。

差止請求そのものは、差止の対象が既に存在しないという形式的な理由で棄却されましたが、研究会商法の限界が示されたという意味では、消費者団体の主張の中心的な部分は認められたと考えて良いのではないかと思います。

「勧誘」概念に関する高裁の判断

高裁では、景表法の問題とは別に、チラシの配布が消費者契約法上の「勧誘」に当たるか否かが争われました。この点について、高裁は、「研究会チラシの配布は、新聞を購読する一般消費者に向けたチラシの配布であり、特定の消費者に働きかけたものではなく、個別の消費者の契約締結の意思の形成に直接影響を与える程度の働きかけということはできない。したがって、勧誘に当たるとは認められない。」と判示しました。

昨年の消費者契約法の改正論議では、「勧誘」概念を不特定多数に向けた広告にまで広げるかということが議論されていましたので、チラシが「勧誘」に当たらないというのは、現在の一般的な解釈を前提にした判断であり、この点については、消費者団体の主張が認められなかったのは当然と言えるでしょう。

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著者

木川 和広 (Kazuhilo Kikawa)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所スペシャル・カウンセル
国際的な案件も含め、EC関連企業の法律問題を幅広く取り扱う。
(木川弁護士プロフィール)https://www.amt-law.com/professional/profile/KLK