地方の企業には、さらなる“突破”が必要 Amazon・楽天出身の敏腕日本酒コンサルタントが語る地方とEC、そして日本酒の未来

ECのミカタ編集部

中山雄介氏

1998年 セブン-イレブン・ジャパン入社
その後、富士通、日本コカ・コーラを経る
2011年1月 アマゾンジャパン入社
(食品飲料事業部長、酒類事業部事業部長)
2015年2月 楽天(食品飲料ジャンル戦略部長)
2017年2月 越境EC事業Inagoraに参画(Vice President)
2020年8月 au コマース&ライフ株式会社の自社物販事業戦略を担うポジションに加え、EC・越境EC分野において十数社の社外顧問を務める。現、合同会社オープンゲートCEO。

「地方をECで盛り上げる」・・・、言葉としてはシンプルだが、それを具現化するには、多くの障壁が立ちはだかっている。その厳しい現実は、実際に地方で事業を営む経営者やEC担当者であれば、日々実感しているのではないだろうか。

今回、Amazonや楽天の社内でのビジネス経験を持ち、日米で活動し、現在、独立し、au コマース&ライフ株式会社の物販事業戦略企画や、複数社の顧問などマルチに活動する中山雄介氏に、その障壁を打ち砕くヒントを中心に、お話をうかがった。

同氏は、日本酒、酒蔵の経営、事業支援とEC展開、特に中国進出支援で多くの成功事例を生み出しており、同氏からは、地方の事業者とEC、そして日本酒の未来について得難い知見が語られた。

日米での企業文化のギャップを経験

中山氏:私は防衛大学校の出身で、そこでは幹部自衛官になるため全寮制環境の元、軍事訓練の他、国防理論、国際関係学を学びました。

退官後に初めて入社した企業がセブン-イレブン・ジャパン(以下、セブンイレブン)です。セブイレブンでは、POSシステムや日本のトップレベルの流通網について経験を積むことができました。特に当時の鈴木会長の「データを鵜呑みにするな」「データから仮説を立てろ」といった言葉は、現場レベルまで浸透していて、仮説を重視する、その哲学に触れられたのは大きな財産となりました。

次に入社したのが富士通のコンサルティング事業部です。そこでは、小売りの現場経験、CRMの要件定義などを行い、アメリカではコンサルタントとして活動しましたので、ここで日本とアメリカの企業経営のギャップについて、多くの知見とベンチマークを得ることができました。その次に入ったのが日本コカ・コーラです。ここは、ご存じのようにマス・マーケティングにおいては世界最高峰の企業で、自身の見識と経験値を絶大に引き上げて頂きました。

マス・マーケティングは、もちろん市場における重要かつ必須モデルのひとつなのですが、その本質は、広告を打ちつつ、原価低減を追求し、いかにすれば一人でも多くの消費者に買ってもらうか?を追求します。徹底的した合理主義のもとで成り立っています。

たとえば一つの新商品を開発する際の最低ロットも、100ケース単位などではなく、物によっては数百万ケース単位まで跳ね上がります。こうなると、マーケティングが失敗したら即アウトなので、いかに流通の末端である物理的な棚に、商品を置いてもらうかどうかが勝負なわけです。テレビCMも、消費者認知UPの目的と同時に、流通企業への棚採用導入を後押しする意味合いもあります。

極めて洗練されたシステムではあるのですが、一方で、自分のやりたいことは、こういったマスの市場原理に乗っかりにくい、素晴らしい商品をもっと発掘したり、消費者に届けたい、という思いが逆に強くなっていました。そうした時に出会ったのがアマゾンジャパンです。

Amazonとの出会い、そして日本酒との出会い

2011年にアマゾンジャパンに入社し、食品飲料事業部長、酒類事業部事業部長として活動しました。Amazonは、ご存じのようにアメリカ発の企業ですが、コカ・コーラとの違いは、歴然でした。

コカ・コーラはマスを体現するモデルでしたが、Amazonではリアル店舗の“棚”に縛られないために、多種多様な物品を展開できる、ロングテール商品を市場に引き上げることが可能なモデルです。これはECモール、そして直販ECが持つ利点ともなり得ます。

さらに言うと、こうしたプラットフォーム上ではよりニッチなアイテムも探されやすい傾向にあります。そういった商品のほとんどが、身近なリアル店舗に置いていないためです。マスの市場原理では、勝負にならなかったようなものも、やり方次第で充分に戦うことが可能となる点に大きな魅力を感じました。そうしたニッチなアイテムをAmazonセラーとして探す中で、私と日本酒との出会いがもたらされたのです。

楽天時代に直面した日本酒を売ることの難しさ

2015年からは、楽天に移り、食品飲料ジャンルの戦略部長として活動しました。Amazonと楽天の違いは、すでに世の中に認知されている通り、Amazonは自社で商品を扱うことに力点を置く直販型、楽天は、事業者にプラットフォームを提供することに力点を置くモール型といったところにあります。これについては多くの方が認識している通りでしょう。

楽天で売られている多くの日本酒は、メーカーである酒蔵自身が出店しているケースは少なく、ほとんどが出店者である酒屋さんによって販売されている商品です。

つまり、流通事業者が店子としてモールに出店し、さまざまな酒蔵の銘柄を販売している構造です。となると、実際、酒蔵は自分の商品が、どれだけ楽天圏内で売れて、どういう人に売られているのか把握しにくい ということになります。

前提ですが、これは酒蔵であるメーカーサイドばかりの視点であり、楽天で出店する流通事業者はメーカーと綿密に情報交換を繰り返し、発展を遂げている素晴らしい事業者さんが沢山いらっしゃり、彼らに支えられている点ももちろんあります。

私はこの構造を垣間見て、EC販売ではあるけれども、ある意味、従来の酒蔵⇨酒屋⇨小売店という構造は大きく変わってないなと思いました。ECの利点の一つに、消費者との接点やコミュニケーションがあります。昨今、D2Cの文脈で語られる事が多いですが、まさに、これからの酒蔵が強く意識していかなければならない点だと確信しています。

日本酒はいわずもがな、日本の伝統文化に根付いた産品です。古代から神事などでも使われ、日本人の魂とも言える米から醸造されます。そして生産から流通まで、古き良き日本の商業基盤と密接に結びついています。コンテンツの宝庫といっても過言ではない日本酒の魅力は、メーカーである酒蔵自身が直接消費者に伝え、反応を得て、改善していく、こういった流れが必要なのでは?という仮説を持ち始め、直接酒蔵訪問など、自分の足で実体験に基づくフィールドワークを始めたのもこの頃です。

地方特有の“しがらみ”をどう打ち破るか、そこで光るノウハウ

-日本酒をとりまく「しがらみ」とおっしゃっていましたが、どういったものなのですか?

中山氏:地方の酒蔵は、従来の流通構造、バリューチェーンの仕組みの上に存在します。酒蔵が酒を生み出し、特定の卸や特約店に販売し、彼らが今度は小売店や料飲店へ販売する。この構図です。

これは高度成長期までの日本の市場の中では、ある意味で最適化されていたモデルなのでしょうが、グローバル化した市場とECが一般に浸透する今では、見方を変えれば、足枷にもなりかねません。たとえば酒蔵がECに踏み出す場合には、そうした従来のしがらみを断ち切って、ECモールに出品することになり、そうすると、これまで培ってきた酒屋や特約店との厚く深い信頼関係に溝ができることもあり得るからです。日本酒業界のEC化率が驚くほど低いのはこの影響が最も大きいと考えています。

それだけではありません。酒蔵は通常、10人前後で運営している小規模なところがほとんどです。そうしますと、まずマンパワーの問題でEC担当に人員が割けないとうことがあります。また、高齢化も進んでいますから、ECのノウハウを持っている人もなかなか育成難しいのです。仮に経営者の若い息子さんなど、外の世界を経験し、仮にECノウハウを持った人がいても、当然限られたリソースの範囲内で、しかも酒造りの本来業務があるわけですから、そこへ乗り出すのは容易ではありません。そもそもEC担当を付けるコストの問題が出てきます。

そこから一歩踏み出すためには、一つずつ解決していかなければなりませんが、まずECで事業を大きくするという経営の意思決定が第一に必要です。このコロナ禍は不幸中の幸いで、それを大きく後押ししているのではないでしょうか。自社ECを立ち上げたり、ECモールなどに出品して、売上利益を上げるには、そもそもそのECモールが自社の日本酒を売る意思と仕組みが十分か?など、その特性を深く研究し、知る必要があります。

日本酒の酒類消費全体における、現在のシェアはかつてに比べて大きく下がっているのですから、日本酒に接したことがない顧客層に向けて認知度を上げることも重要でしょう。また、販売戦略面でも、販売チャネルを絞り、流通を制限することによる希少価値を高める戦略か、逆に販売チャネルを増やして、より多くを消費者に届けるマス戦略を取るのかといった選択も極めて重要です。中途半端が一番ダメだと思います。

私達はさらに、どういった公的支援策を選べばいいのかも指南しています。国税庁、農林水産省、JETRO、JFOODOなどがこうした面を総合的に支援しており、私自身も直接こういった公組織と長らくコミュニケーションを続けており、そのことによる成功事例が、徐々に積み重なってきています。

生き残るためのEC活用、そして公共の役割

-日本酒、酒蔵、そして地方の事業者の未来についてどう見られますか?

いま、このコロナ禍において、酒蔵の方針は大きく2分されていると思います。一つは積極的にEC&海外展開に乗り出す事業者、もう一つは、従来の取引先との関係を確実に守る事業者です。どちらもその事業者の経営戦略であり、誰も否定できない崇高なものであることに変わりはありません。

しかし、特に後者の場合、私は、これから先の安定的成長が果たしてできるのか?と危惧しています。日本酒は日本の伝統文化に根差しているからこそ、世界市場においても価値があるのですが、その価値を守るためにも、変わるべきところは変わる必要があると思います。

たとえば北海道のある酒蔵では、ファンドが入り、産学連携で従来のバリューチェーンとは一線を画した事業展開とブランディングを行い、大きな成果を上げています。自社でしっかりオンラインECも運営されています。北海道は米の生産が成功して歴史が浅く、また開拓から間もない若々しい土地柄です。酒蔵もまだ数が多くありません。逆に、そのような背景だからこそ、「しがらみ」が少ないのかもしれません。新たな日本酒展開をする上での希望の地として見られる状況が生まれる可能性を感じており、東海地方のある酒蔵が北海道に拠点を移したといったことも起こっています。

また国や地方自治体の役目も変わらなければならないでしょう。つい先日、ある中央官庁で日本酒の中国輸出に関して講演をさせていただいたのですが、日本の公共機関も、消費者との接点、消費者の心理との遠い距離感に悩んでおられました。勿論致し方のない事ですので、我々実ビジネスを行う事業者が、しっかりと優秀な官僚の方々に提言をして行く必要性を強く感じています。

対中国展開で言えば、中国の流通業者は、倉庫も日本酒を常温保存します。なぜならコストが安いからです。良質な日本酒が高回転で売れれば必ずしも高コストの冷蔵は必要ないですが、国をまたぎ、通関や物理的に離れたところへの輸送はどうしても時間がかかります。そこを補完する形で、しっかりとした冷蔵倉庫と冷蔵物流で補完されることで、鮮度と味が保たれるのは、日本企業の酒蔵なら常識ですが、中国ではそんなものは全くもって常識ではありません。

だから業者はあえてそこに追加コストをかけないのです。であるなら、まず最初に中国の消費者を啓発すればいいわけです。従来の多くのアプローチがここをきちんと理解していないと思います。冷蔵倉庫や冷蔵クーラーをお金をかけて開発して、強引に送り込むのが先ではないと思います。あくまでもソフト面でのアプローチが最初にあるべき。実際に日本酒を口にするユーザーが「冷蔵で品質管理された日本酒はおいしい」と知れば、すなわちその価値を認めれば、流通も変わるはずです。こうした啓発に公的な支援をすることも求められるでしょう。

「見えない天井」を突破していく

中山氏の華々しい経歴と共に流通をさまざまなレイヤーで直視してきたその知見と、ビジネス展開をする上でのノウハウ、そしてなにより日本酒に対するその熱意がお話の端々から滲み出ていた。そしてその知見は、酒蔵と日本酒を取り巻く業界だけに限らず、多くの中小企業に共通して当てはめられる部分が多分にあるのではないだろうか。

地方の時代と言われて久しいが、それとは裏腹に地方が疲弊する状況が続いている。その地方の状態を支援する施策は数多く繰り出されているが、見上げるとその空には見えざる天井の存在を感じることも少なくない。

同氏のお話からも、ECがその見えざる天井を突破するカギとなることは間違いないだろう。地方とそこで展開する事業者も変わるべきところは変わらなければならない。そして中山氏のような存在が、そのための知見をもたらすことになる、それを実感できる貴重なインタビューとなった。


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