食品ECを成長させる「顧客起点」とデータ戦略――松屋・三ツ星ファーム・ZENBの実践事例

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ECのミカタ編集部

食品EC市場が成長を続ける一方で、昨今の原材料費や物流コスト、広告費や人件費の高騰により、事業運営の難易度は一段と高まっている。商品開発、新規顧客の開拓、リピート施策、利益改善、業務効率化……。複数の課題に同時に向き合う中で、限られたリソースをどこに投下すべきか、判断に悩む事業者も少なくないはずだ。

では、成果を出し続ける企業は、何を優先し、どのように意思決定しているのだろうか。本稿では、ECのミカタ「食品ECカンファレンス」で語られた各社の実践事例をもとに、売上最大化につながる“意思決定のリアル”を整理する。なぜその施策を選び、どのように成果に結びつけたのか。現場の試行錯誤から、次の一手を考えるヒントを読み解く。

●本記事は2026年3月開催「ECのミカタ カンファレンス」で行われたセッションをレポートしたものです

売上48億円を生んだ「3軸」。松屋フーズが外食からECで勝てた理由

外食ノウハウしか持たなかった松屋フーズのチームが、ECへの本格参入から約7年で売上高48億円を達成し、主要ECモールの年間賞を総なめにした。さらに2025年にはTikTok Shopに参入。初月に月商3,800万円、翌々月には8,500万円まで急伸した。

株式会社松屋フーズ 戦略事業部外販グループ グループマネジャーの岩田幸恵氏は、成功の3軸として「商品力・配送力・販売力」を挙げる。

「これらが揃ったときに、ECは爆発的に成長します。逆に言えば、どこか一つでも欠けると伸び悩みます」(岩田氏)

商品力の面では、ヒットと失敗の両方から学んできた。冷凍ごはんや海鮮系が選ばれなかった理由について、岩田氏は次のように語る。

「主語がお客様ではなく自分たちだったこと。お客様の利用シーンの想起が足りていなかったこと。そして売りやすい売価をつけたいという下心もありました。こうした下心はお客様に見抜かれてしまい、結果として選ばれません」

その経験から原点に立ち返り、シュクメルリやうまトマハンバーグなど実店舗で支持された“これぞ松屋”と認知されている商品に注力。「爆発力のある“点”の商品」と「ブランドを支える“面”の商品」を両輪で持つ考え方に至った。

(写真左から)株式会社松屋フーズ 戦略事業部外販グループ グループマネジャー 岩田幸恵氏、株式会社モールハック 取締役副社長 若松友貴氏

配送は「最大の営業力」と位置づけ、朝8時までの注文は当日出荷、土日も止めない。「箱を開けた時の美しさにこだわっています。チラシは入れず、商品がびっしりと美しく並んでいる。この視覚的体験がリピーターを生みます」と岩田氏は話す。

販売面では、楽天経済圏、携帯キャリア系、JRE・ANA・JALといったマイル経済圏など「お客様が普段使っている生活圏に出向いていく」ことを重視。モール横展開で土台を築き、2025年にはTikTok Shopでの販売もスタートした。

松屋のTikTok Shopでの急成長を支える株式会社モールハック 取締役副社長の若松友貴氏は、TikTok Shopと食品の相性の良さをいち早く確信していたという。出店時には、600人超のクリエイターネットワークを活用し、「どこを見ても松屋」という状態を意図的に創出。認知と購買を面で押し上げた。さらに月ごとのテーマを設定し、クリエイターの発信を重ねることで、継続的な売上づくりにもつなげている。

「複数のクリエイターの発信が重なり、自分に関係があると感じたときに購買が生まれる」(若松氏)

土台を愚直に磨きながら、それをどこで増幅させるかを見極める――。松屋フーズの実践は、食品ECで成果を伸ばすための一つの指針となる。

【松屋フーズ、ECモール賞総なめの裏側】を、さらに詳しく!

累計4,000万食を支える「データ起点の商品改善」。三ツ星ファームが進める食の総合EC化

ECのプロ集団である株式会社イングリウッドが、社会変化による「中食」市場の拡大を捉えて2021年に立ち上げた冷凍食品ブランド「三ツ星ファーム」。2026年1月末には累計出荷食数4,000万食を突破。同社 ブランドマネージャーの本間悠也氏が、その実践を語った。

三ツ星ファームを事業化した当時の問題意識をについて、本間氏は「レストランでおいしいものを食べる、自炊して体に良いものにこだわる、コンビニで手軽に済ませる――この3つをすべて両立した食品はなかなかありませんでした」と振り返る。

株式会社イングリウッド リテールコンシューマ事業部 三ツ星ファームチーム 三ツ星ファームブランドマネージャー 本間悠也氏

そこで“おいしい・体に良い・簡単便利”の3つを軸に据え、ミシュラン一つ星獲得シェフや管理栄養士が開発に関与。「カロリー350kcal以下、糖質25g以下、たんぱく質15g以上」という“三ツ星基準”を設けた。多くのメニューを電子レンジ約5分で食べられる設計とし、2024年には自社アプリも開発している。

継続利用を生む源泉について、愛用者の実態から「私たちが当初想定していなかった使い方も含めて、その人なりの食事ルールを持っている方ほど、生活にフィットしています」と本間氏。愛用者ほど「推しメニュー」を持ち、職場のランチや主婦の自分用など利用シーンが明確だという。栄養補給にとどまらず、食べるときの感動や驚き、季節を味わうといった情緒的価値が、継続利用を支えているのだ。

そして、同社が他の食品ブランドと一線を画すのが、EC事業者ならではのデータ活用による商品改善だ。たとえばグラタンでは、「水っぽい」「味がぼやけている」というユーザーの評価を受けて約半年でリニューアルを実施。評価を★2.6から★3.75へと向上させた。

WebマーケティングのPDCAを食品開発に持ち込む「Web的改善サイクル」が、同社の競争優位を支えている。

こうした顧客理解を背景に、2025年11月からは毎月の新カテゴリー商品の投入に加えて、1食単位での追加や単品購入も可能にするなど、「食の総合EC」への転換を本格化させている。「定期的に届くサービス」から「選んで楽しむEC」へ。定期便モデルを超えて、データで進化し続ける三ツ星ファームの挑戦は続く。

【三ツ星ファームが実践するデータ戦略の核心】を、さらに詳しく!

「注文ゼロ」からの成長。ZENBが実践した顧客起点と改善サイクル

220年以上続くミツカングループの「捨てられるものを活かす」思想を受け継ぎ、2019年にゼロから立ち上げられたウェルビーイングフードブランド「ZENB」。2025年にはJAPAN EC大賞食品部門賞など、複数のアワードを受賞するまでに成長したが、立ち上げ直後には売上ゼロの日が続いたこともあった。

株式会社 ZENB JAPAN ダイレクトチーム チームリーダー 和田悠氏が、その道のりにあった失敗と顧客起点の取り組みを明かす。

最初のピンチは、立ち上げ直後に訪れた。ミツカンの既存事業では「商品を出せば自然と認知される」という感覚が染み付いており、そのままECに挑んだ結果、発売から数カ月後には注文件数ゼロの日が続く状態に。

「これを見てお客様が何か買おうと思えるかというと、そうは思えないようなサイトだった」と和田氏は振り返る。メッセージの文脈のズレ、顧客ニーズと乖離した訴求、曖昧な購買導線が重なった結果だった。

株式会社ZENB JAPAN ダイレクトチーム チームリーダー 和田悠氏

2つ目の失敗は、食品ECのビジネスモデルへの理解不足。食品は単価が低く、新規獲得コストを単発購入で回収することが難しいため、この前提を理解するまでに時間を要した。転機となったのが、ZENB NOODLE(ゼンブヌードル)とZENB BREAD(ゼンブブレッド)の投入。主食カテゴリーへのラインナップの拡充が浸透を後押しし、継続率の向上につながったという。

3つ目は、NPS(ネット・プロモーター・スコア:顧客ロイヤルティ指標)の急落だ。原因を掘り下げると、ゆで時間の異なるZENB NOODLEの「丸麺」と「細麺」のパッケージデザインがほぼ同一で、顧客が誤った調理をしていたことが判明。商品ではなく情報設計の問題だった。「NPSに真摯に向き合い続けていたからこそ、早期に発見して改善できた」と和田氏は語る。

顧客起点とPDSAサイクルは、ミツカンの企業理念を受け継ぐZENBの根幹と言える。顧客の声を改善に反映し、その結果を「ZENBの樹」として発信することで「自分たちの声が反映された」という実感を生む――このループこそがDtoCの強みだと、和田氏は言う。学びを組織に組み込み続けること。それがZENBにとって、顧客起点を形骸化させないカギとなっている。

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食品ECの重要ポイント――お客様の声・LTV・価格戦略

パネルディスカッションにはイングリウッド(三ツ星ファーム)の本間氏とZENB JAPANの和田氏が再登壇。顧客の声の活かし方や食品ECならではの見せ方の工夫について、実務のリアルを交えて語り合った。

――ブランド立ち上げ当初、どうやってお客様の声を集めましたか。

ZENB JAPAN 和田氏(以下、和田) 2019年にMakuake(マクアケ)で初回商品をリリースし、そこから声が集まりました。販売量がまだ少なかったため、購入者一人ひとりにメールを送り、「なんとか時間をください」とお願いして電話インタビューを実施。週1回は必ずやると決め、頼み込んで時間をいただくところからのスタートです。

内容は「ありがとう」という声から、調理方法や保管の悩み、商品要望、配送方法、さらには「サイトがいけてないのでは」といった指摘まで幅広いものでした。まずはそれをメンバーに共有するところから始めています。

顧客数が増えてからは、NPSを比較的早い段階で導入しました。購入3日後・3カ月後にスコアとコメントを取得する仕組みにし、情報量も増えました。「お客様の声を自動的に集める仕組みを作りたい」というのが導入の背景です。

三ツ星ファーム 本間氏(以下、本間) 最初はカスタマーサポートに届くメールや、商品同梱のお便りを全件読むところから始めました。特に紙のお便りは熱量が高く、現状把握や改善点の発見に役立ちます。

ただ、強い声に引っ張られがちになるため、ある程度まとまった量で見ないと全体像は捉えられません。事業が大きくなるにつれ、すべての声をデータ化し、「どのような要望が何件あるか」を把握できるようにしました。さらにデプス調査も定例化しています。最近は月1回、チーム全体で数値の推移を確認し、変化があればドリルダウンして原因を見ています。

――お客様の声を、「やる・やらない」に分ける判断基準は?

和田 インパクト(対象顧客数と改善効果)、ペインの深さ、実装難易度の3つを掛け合わせて見ています。例えば文言修正ならすぐ対応できますが、商品開発は半年~1年かかる。その場合は、同梱物やサイトで代替できないかを先に検討します。

新商品発売後は約1カ月後に購入者へアンケートを配布し、発売から1~2カ月間の購入者数やリピート購入者数をスコア化して、商品改善の参考にしています。

本間 「ボリューム(どれだけ多くのお客様が望んでいるか)」と「深さ(一つひとつの熱量)」で見ています。平均評価がそれほど高くなくても、一部の方から熱狂的に支持されている商品は残しますし、要望件数が少なくても「多くの人が潜在的に感じているのでは」と思うものは試します。

熱量はテキストだけではわかりづらいため、実際に話したときの切迫感や感情の乗り方も重視しています。ロジカルに寄りすぎると機械的なブランド運営になるので、そこは意識していますね。

――試食してもらうことのできないECで、どのように商品のおいしさを伝え、信頼につなげていますか?

本間 まだ完璧とは言えませんが、視覚しか使えない中で匂いや食感、味覚をどう表現するかは常に意識しています。「見た瞬間に食体験が想像できるか」が重要で、写真や動画にはかなりこだわっています。加えて、良い商品を作り続ければレビューが積み上がり、それ自体が説得力になります。

和田 湯気など温度感を伝える表現や唾液を誘う見せ方、お皿の色など、撮影の細部までこだわっています。有名シェフの試食コメントや事前アンケート結果を掲載し、第三者の評価として信頼につなげています。メーカーの主張だけでなく、消費者や専門家の視点を見せることも大切です。

――初回購入から定期購入に誘導する施策として「効いたもの・効かなかったもの」は?

和田 ZENB NOODLEでは、最も効いたのは鉄板レシピ・調理法の提示です。初回体験が継続率に直結するため、シナリオや同梱物で最もおいしい食べ方を伝えました。一方で、ブランドコンセプトの読み物は調理体験につながりにくく、“入口”での効果は限定的でした。

本間 初回はメニューが多すぎて選べないという課題があります。そこでリピート率や評価データを基に“オールスター”を編成し、確率的に満足度が高い構成にしています。味覚には個人差があるものの、これによって継続率が改善しました。

――食品ECで「ここを押さえないと事故る」というポイントは?

和田 品質管理が大前提です。食品はお客様の健康、場合によっては命にも関わるため、原料・生産・配送まで含めた管理体制を整えています。

本間 品質管理に加え、需給予測と在庫管理です。賞味期限があり原価も高い食品では、製造数の過不足が直接損益に影響します。多品番では特に重要です。

――2026年の最重要テーマは?

本間 新規顧客の獲得です。原価や配送費の高騰で採算性が低下し、CPAも上昇する中、いかに新しい顧客にリーチするかが成長の鍵になります。

和田 「メンタルパフォーマンス」です。コスパ、タイパに続く価値軸として注目しており、そこにZENBがどう貢献できるかを模索しています。

物流・戦略・AIで食品ECの未来を切り拓く――支援事業者が語る成長のカギ

カンファレンスには、食品EC事業者の成長を支える支援事業者3社も登壇。

東京ビジョンクリエイト株式会社は物流現場の人手不足やコスト増に対応する生産性向上の事例を、株式会社ジャパンフードカンパニーは食品ECに特化した知見にもとづく売上改善の実践ノウハウを、株式会社ecbeingはAIがもたらす顧客体験の進化と次世代ECの可能性を、それぞれ紹介した。

セミナー後の懇親会では、登壇者と参加者が一堂に会し、活発な情報交換が行われた。オフラインならでは出会いも生まれ、イベントは盛況のうちに幕を閉じた。

(写真左から)東京ビジョンクリエイト株式会社 システムデザイン部 次長 原垣内文方氏 ●セッションテーマ:食品物流現場の生産性向上事例紹介、株式会社ジャパンフードカンパニー 代表取締役 南口龍哉 ●セッションテーマ:売上停滞を打破せよ!伸びる食品EC事業の作り方 '26、株式会社ecbeing 上席執行役員 斉藤淳氏 ●セッションテーマ:AIが変える食品ECの顧客体験――次世代ecbeingが導く成長モデルと成功事例ご紹介