楽天イベントで語られた「AI時代の人間性と幸福」――Rakuten Ad&Marketing DAY 2026レポート【前編】

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大矢根 翼

左から:アイデアプラント代表 石井力重氏、楽天グループ株式会社 常務執行役員 松村有晃氏

あらゆるビジネスにおいて話題にのぼらない日がないほどのスピードで進むAIの利活用。EC関連領域でも日々新たな発表が相次いでいるが、中でも楽天は、AI化を意味する造語「AI-nization(エーアイナイゼーション)」を掲げ、グループとしてAI活用を推進している。

そうした状況の中、今回は、楽天グループ株式会社 アド&メディアカンパニーが2026年2月20日に開催したマーケティングイベント「Rakuten Ad&Marketing DAY 2026」のレポートをお届け。「未来を創るAIとデータの力」をテーマに開催された同イベントから、4つのセッションの模様を前編・後編でお伝えする。

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AIで「直感を検証可能な形にする」

基調講演に登壇したアイデアプラント代表 石井力重氏は、「考える力の重要性」をテーマに、創造の補助ツールとしてAIを使いこなすプロンプトと、人間の強みを引き出す方法を語った。

石井氏は人間の創造活動にAIが協力するテクニックとして、意図的に「隙のあるアイデア」をAIに提出させることを提案。「突っ込みつつ発展案が浮かぶ」人間の創造性の特徴を、AIのスピードが補完することで、叩き台づくりに再現性を持たせられるという。講演では、粗削りな求人アイデアをもとに、プロの人事が現実的な施策に落とし込む工程が例示された。

AIに創造性を求められる課題を出すと、回答は一般的な情報の集合体として「のっぺりとした」ものになりがちだ。しかし、その特性を逆手にとり、プロンプトで「思考の盲点」を探り、「空白エリア」を発見したら、そこを起点に「ブレイクスルー」を起こせると石井氏は語る。つまり、AIに自分の仕事が行き詰っていた原因の盲点を挙げてもらい、人間の想像力を稼働させて具体的な業務の突破口を作るという運用だ。

他方でAIの人間味は増している。2025年に行われた研究では、人間とAIの回答を峻別させる「チューリングテスト」の結果が75%を超えた(※1)。これは75%の人間がAIの出力を「こちらが人間だ」と回答したことを意味する。それでは人間は不要かという問いに、石井氏はノーと回答する。

創造性の要求される「詩」に関するテスト(※2)では、創造性と速度の二軸で結果をプロットすると、高い創造力を素早く出力できた群はAIと人間が協力していた。裏を返せば、人間だけでは遅いが、AIだけでは回答が同質化することを意味する。

人間の直感や暗黙知には価値があり、「休暇や趣味といった直感や感性を涵養する行動も仕事であり、人の武器になる」と石井氏。人間性の高い要素をSensitivity(感受性)、Empathy(共感力)、Notion(直感)、Dedication(情熱的な没頭)の頭文字から「SEND」と呼んだ。

同時に“タイパ”を追い求めてAIに頼る働き方には「時間を削って能力まで失う」と警鐘を鳴らす。石井氏は「そのような働き方では自己効力感も失う」と述べ、AIが「自分よりも”できる”部下」だと思って接することで「直感を検証可能な形にできる」と締めくくった。

※1 Large Language Models Pass the Turing Test(Cameron R. Jones Benjamin K. Bergen)
※2 Establishing the importance of co-creation and self-efficacy in creative collaboration with artificial intelligence (nature)

マーケティングの幸福論

続くオープニングリマークスには、楽天グループ株式会社 常務執行役員の松村有晃氏が登壇。松村氏は「マーケティングの力で日本を元気に」という合言葉に対して、日本のマーケティングと「元気さ」を数値から分析する。

松村氏は世界幸福度調査とIMFのデータ(※3・※4)を引用しつつ、治安などの安心度は高いが、個人の幸福度は低い日本を「平和だが笑顔がない国になり始めている」と表現する。OECD各国を経済成長率と幸福度でプロットした図の時間を動かすと、まず経済が停滞し、続けて幸福度を失っていった、2007年以降の日本が描き出された。

ここで広告が幸福度との相関という文脈で登場する。GDP比の広告費と幸福度には正の相関があるが、外れ値の日本は「広告を打っているのに幸福度が低い」と松村氏。

「広告が国民を元気にできる」という仮説への逆風として紹介されたデータが、統計数理研究所の「日本人の国民性」(※5)だ。空間軸における意識は社会志向から自分志向へ、時間軸では未来志向から現在志向へとスライドしているデータから、松村氏は「マーケティングコミュニケーションで付加価値を付けられる領域は狭くなっている」と述べ、対策として「短期的な購買行動の強化」だけでなく、「中長期的な生活者との関係構築」が可能なマーケティングインフラの必要性をあげた。

※3 World Happiness Report 2025(The World Happiness Report)
※4 Japan and the IMF(IMF)
※5 日本人の国民性 第14次全国調査 結果の概要(統計数理研究所 国民性調査委員会)

経済圏の強みは深さ、広さ、大きさ

マーケティング費用全般におけるシェアではウェブ広告の存在感が増している。松村氏はこのトレンドを「個別的・継続的なリレーションマーケティングが主流になりつつある」と分析。さらにウェブの中でも検索ボリュームのシェアは個別ドメインから「楽天市場」などの経済圏に移行した数値を紹介した。

松村氏は自社ドメインでのマーケティングにまつわる「囲い込みはできるが拡大しない」という課題を指摘。一方「エコシステム・マーケティングでは 『AIのスマートさ』『データの深さと多面性』『顧客規模の大きさ』でマーケティングインパクトを生み出す」と語る。

加えて松村氏は、楽天が開発しているAIと、グループ全体で年間30兆円もの流通総額に紐づいたデータを強みとし、取扱高が過去6年間で年率平均12.2%の成長を見せる楽天のマーケティングが広告業界をけん引する意気込みを見せた。

テクノロジーが進歩して、経済環境が変化しても、生活者は個別最適で幸福を追求し続ける。また、AIはコンテンツ制作やデータ解析で石井氏が言うように「ブレイクスルー」を起こしてきたが、人間がツールを使うという普遍性までは破壊していないように見える。自社の目標と生活者の需要をすり合わせる重要性は、AI時代にも変わることはないだろう。(後編へ続く)

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記者プロフィール

大矢根 翼

大矢根 翼

2018年法政大学卒業後、自動車部品メーカーに就職。
ブログ趣味が高じてライターに転身し、モータースポーツメディア『&Race』を副編集長として運営。
オウンドメディアの運営、記事制作など、複数ジャンルで記事制作をメインに活動している。

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