なぜBtoB EC導入は「データ移行」で停滞するのか? 成功のカギは「情報の引き算」と事業フェーズに合わせたシステム選び
BtoB EC導入に向けて、「現場のすれ違い」をクリアし、要件を整理し、いよいよシステム選定に入るとき、ここで立ちはだかるのが「商品マスタとデータ移行」の壁だ。膨大な商品データや社内に散在する複雑な取り引き情報を、そのまま新システムへ移行しようとしてうまくいかず、プロジェクトが停滞してしまうケースは少なくない。
株式会社ウキヨの吉岡大輝氏による、BtoB EC推進に関する連載の第4回は、「顧客にとって必要かどうか」を基準に情報を絞る「引き算のマスタ整理術」を紹介。事業フェーズに合ったシステム選定と「成功のカギ」を解説する。(全6回)
●過去コラムはこちら!
【第1回】現場を疲弊させない「攻め」と「守り」のDX
【第2回】現場の反発と経営の壁をどう乗り越えるか? BtoB ECの進め方
【第3回】BtoB特有のアナログ商慣習をシステムに落とし込む3つのステップ
なぜ「システム選定」の前に「商品マスタ」でつまずくのか
前回の第3回では、BtoB特有のアナログな商慣習をシステムに落とし込むための要件整理について解説しました。要件が固まり、具体的なシステム選定のフェーズに入りますが、ここで多くの企業が直面するのが「商品マスタとデータ移行」の課題です。
BtoB ECのプロジェクトが遅延する主な原因は、システム自体の機能不足よりも「自社のデータが複雑、あるいは不完全な状態で、新システムへ移行・掲出できない」ことにあります。BtoBの取引では、同じ商品でも取引先ごとに異なる卸単価(掛率)や、「バラ」「箱」といった入り数の違いが存在します。長年の運用で重複した品番や、担当者ごとのExcelに散在するデータをそのままにしてシステムを選定すると、実際の運用フェーズで行き詰まる可能性が高くなります。
【実例】顧客の選定判断に必要な情報を起点とする「情報の取捨選択」
データの移行やマスタ整備において、自社が持つすべての情報を網羅しようとすると、多大な労力と時間が必要になります。ここで重要になるのが、情報を意図的に「取捨選択(引き算)」する視点です。実際にこの課題を乗り越えた企業の実例をご紹介します。
●年商数十億円規模・専門部品メーカーのケース
この企業ではECサイトの立ち上げを計画していましたが、社内に商品マスタやPIM(商品情報管理)の仕組みが存在せず、サイトに商品情報を掲出できないという状況でした。入り数や独自の単価設定などの組み合わせをすべて整理してシステム化しようとすると、情報調達の負荷が膨大になります。
そこで実施したのが、「顧客が商品を選定する際に、どのような情報が必要か」という視点での情報の整理です。自社が管理したい情報を網羅するのではなく、顧客の選定判断に必要な画像やスペック情報など、商品に付帯すべき情報(サイト上のメタデータ)を取捨選択しました。これにより情報調達の負荷を最小化し、複雑な条件設定よりも「顧客が求めている情報」を起点にマスタを整理することで、効率的にECをスタートさせることができました。
自社のフェーズに合ったシステム選定「3つの比較ポイント」
情報の整理方針が決まった後は、自社の状況に合ったシステムを選定します。
①【初期フェーズ】スモールスタートでの検証
●比較ポイント:SaaSの標準機能との適合性
先述の事例のように、まずは顧客に必要な最低限の情報に絞ってECを立ち上げる場合、初期費用を抑えて短期間で導入できるSaaS型(ASP)が適しています。自社の業務プロセスをシステムの標準仕様に合わせることで、迅速な稼働が可能になります。
②【発展フェーズ】基幹システムとの連携と業務自動化
●比較ポイント:API連携の強さとマスタの柔軟性
取引先ごとの単価や在庫状況を基幹システムとリアルタイムで連携させたい場合、既存のデータをシステム上でどう紐付けできるか、連携機能の豊富さやパッケージの拡張性が比較の鍵となります。
③【統合フェーズ】多様な購買体験の提供
●比較ポイント:カスタマイズ性とヘッドレスコマース対応
大口顧客には専用の購買ポータル(EDI)を、小口顧客にはセルフサービス型のECを提供し、裏側は一つのデータ基盤で統合したい場合、フルスクラッチ開発や柔軟なプラットフォームが視野に入ります。

システム比較時の確認チェックリスト
システムを選定する際は、機能一覧だけでなく、実際の運用に即した以下のポイントをベンダーに確認することが重要です。
【Check!】自社の複雑な商品マスタ(荷姿違い、取引先別単価など)を、システム上でどのように管理・保持できるか
【Check!】CSVによる一括アップロードや商品情報の更新作業が、現場の担当者にとって分かりやすい仕様になっているか
【Check!】既存の基幹システムとのデータ連携テストは容易に実施できるか
まとめ:プロジェクトを前進させるには「スモールスタートで確実なステップを踏むこと」
BtoB EC導入における「商品マスタとデータ移行」の課題は、すべてのデータを完全に網羅しようとするのではなく、「顧客にとって必要な情報は何か」を基準に情報を取捨選択することで解決の糸口が見えます。スモールスタートで確実なステップを踏むことが、プロジェクトを前進させるポイントです。
システムが稼働し、定型業務が効率化された後、その「浮いた時間」をどう活用するかが次のステップになります。次回(第5回)は、効率化で生まれた時間を重要顧客への提案活動に振り向ける「デジタルと人のハイブリッド戦略」について解説します。


