「認知施策、どれもしっくりこない」の正体は“意志の不在”だった! 獲得型DtoCのHRCが全5ブランドのBrand Identityを言語化した理由
獲得型広告で成長してきたDtoC事業者の多くは、ある段階で「そろそろ認知施策も必要だ」というフェーズにたどり着く。しかし、施策を打っても判断軸はCPAやPV数のままで、手応えを感じられないケースもあるだろう。インナーウェアの「VIAGE」「LUNA」「TOLETTY」「emmerday!」、デリケートゾーンケアアイテムの「laugh.」という5ブランドを展開する株式会社HRCは、その原因を施策ではなく「ブランドの意志がないこと」と捉え直し、全ブランドでBrand Identityを策定した。その結果、組織と現場で何が変わったのだろうか。意志を起点に100年続くブランドを創る支援を行う株式会社NineCraft 代表の鄭氏と、HRC 経営企画室の川田氏に話を聞いた。
CVRとCPA以外に、提案の良し悪しを判断する軸がなかった
──まずは、鄭様が川田様をご支援することになった経緯をお聞かせください。
株式会社HRC 経営企画室 川田氏(以下、川田) 鄭さんとは、当初Instagramの運用支援のご相談でお会いしました。ところが話を聞くうちに、Instagramの運用ではなく、これからのブランド経営そのものを相談した方がいいと感じ、ミーティング後すぐに代表に伝えました。
株式会社NineCraft 代表 鄭氏(以下、鄭) Instagramは知ってもらうための手段の一つにすぎません。本質的な課題は、短期の獲得だけではたどり着けないお客様との関係性をどうつくるか、つまりブランド経営の構造にあるとお伝えしました。それから約3年、いまでは組織づくりや3カ年戦略など、ブランド経営に関わる課題全般の解決をご支援しています。
──そもそも、複数の会社からの認知施策の提案がしっくりこないことから、川田様は鄭様に問い合わせをしたと伺いました。具体的に、提案のどこが「しっくりこなかった」のでしょう。
川田 そもそも会社として、3年後、5年後にブランドをどうしていくかという長期戦略が描けていませんでした。代表は20年、30年と長く愛されるブランドにしたいと考えていましたが、実際の意思決定は1年後の売上目標が起点だったのです。
そのため、代理店さんから「このメッセージで伝えてはどうか」と提案をいただいても、CVRやCPAへの影響でしか良し悪しを判断できません。実施後も「再生数が伸びたから良かった」で終わり、売上やお客様への影響が見えませんでした。
数字を目的化した瞬間、本質的な行動が取れなくなる
株式会社NineCraft 代表 鄭氏
──鄭様は川田様と話す中で、問題がどこにあると診断されたのでしょう。
鄭 経営の目的が売上だけになると、判断軸は「数字が上がるか」しかなくなります。「グッドハートの法則」というものがあるように、結果指標である数値を目的化した瞬間に、本質的な行動が取りにくくなってしまいます。
数字以外に「何を目指すのか」という参照点をつくらなければ、同じことが永遠に起き続けます。そのため「ブランドの意志を定めましょう」と川田さんにお話ししました。
川田 その話を聞いてハッとしましたね。「ブランディングをしましょう」ではなく、「自分たちがどうしたいかの意志がなければ、そもそも戦略は描けない」という入り方だったんです。
鄭 私は「ブランディング」という、すでに世の中にある言葉を借りて提案することはしません。それよりも「なぜこの問題が起きているのか」を本質的に捉えて考えるアプローチを重視しています。
Brand Identityとは、パーパスから始まる「意志の集合体」
──「ブランドの意志」を決めるとは、具体的に何を決めることなのでしょう。
鄭 私はBrand Identity (以下、BI)を「ブランドの意志」と呼んでいます。ルーツから始まり、何のために存在するのか、何を問題と捉えて何に取り組むのか、どんな未来を目指すのかを数字ではなく高い解像度で言語化し、チームの共通認識にするものです。

川田 鄭さんのワークショップは問いの深さが段違いです。「何のために施策を打つのか」「どんなブランドにしていきたいのか」と問いの連続で、一度決めた言葉も「本当にそれでいいのか」と何度も見直しました。
鄭 私が何より意識しているのが、各メンバーの抽象的な思考のレベルを上げることです。「そもそも何のためにやるのか」と問えるようになれば、目の前のやり方も手段の一つだと気づき、打ち手の幅が広がります。そのため、必ず全員に問いかけ、認識がそろってから次へ進みます。

──今まで獲得で成長されてきたHRC様が、全ブランドでBIを策定するという投資判断に至った理由をお聞かせください。
川田 まず主力ブランドで試しました。そこでブランドの意志が固まり、鄭さんに長期戦略をどう描けるかまで示していただけたので、腑に落ちて全ブランドに展開しました。
BIの策定により、メンバーが覚醒したと思えるほどの変化が生まれた
HRC 経営企画室 川田氏
──BIの策定後、組織はどう変わりましたか。
川田 大きな転換点は、機能別組織からブランド別組織への移行です。ブランドごとにチームをつくり、ブランドマネージャー(BM)を置きました。BMが意志のセンターピンになるので、メンバーが入れ替わっても、新しく入った人がすぐにブランドの意志を理解できます。
──メンバーの動き方にも変化はありましたか。
川田 意見は以前から出ていましたが、判断基準は売上やCPAでした。今は「このメッセージは私たちの意志として正しいのか」という問いが自然に生まれています。中には鄭さんのワークショップを通じて抽象的な思考を手に入れ、ブランド戦略を資料にまとめて提案してくるなど、「覚醒したな」と感じる社員も出てきました。
鄭 私のワークショップには「アクセプト」「リスペクト」「クエスチョン」「メソッド」という4つの応対をする考えがあります。あるアイデアが提案された際、どんな内容でもまずは受け入れ、その場に持ち込んでくれたことに敬意を表します。その後に「どんな未来にたどり着きたいのか」を問うことで自己批判的にアイデアを捉え始め、その上で私がメソッドを伝えるとさらに思考を深めるようになります。
川田 このワークショップで社員の成長が目に見えたことが、投資判断に至ったもう一つの理由です。
鄭 また、ブランドの運営メンバー一人ひとりに「何に最もこだわる人なのか」を定める「マインド設計」も行いました。たとえば、BMはブランドイメージに、プロモーション担当は新規獲得に、CRM担当はリピートに、それぞれ「誰よりも強く」こだわる人である、という具合です。あえて対立するマインドを組織の中に生み出すことで、「AかB」の妥協ではなく、どちらも諦めない「AもB」を選べる組織になると強いアイデアが生まれます。
──顧客理解や施策には、どのような変化がありましたか。
川田 ブランドの意志がお客様に伝わっているかを、CSが自ら分析してくれています。
鄭 CSの責任者の方から「ブランドで定めた意志を実現するために、お客様向けにこんなイベントを開催したい」ということを提案いただいたのは印象的でした。それだけではなく、CSが全チームから仮説を集めて検証する顧客理解プロジェクトが各ブランドで立ち上がり、意思決定が格段に速くなっています。
川田 社外のパートナーさんにも、最初に「ブランドをどうしたいか」を説明するようになり、提案の精度が上がりました。クリエイティブにも「ブランドとして合うか」という軸ができ、判断のスピードも上がっています。
数字と意志の葛藤は、次のフェーズへ進むサイン
──BIの策定後、今も難しいと感じる課題はありますか。
川田 数字と意志の葛藤は、これからも続くと思います。しかし、より良いものを生み出すには、その葛藤が必要なのかもしれません。
鄭 その問題は振り子のように揺れ続けるものです。HRCさんの強みは数字なので、それを弱める必要は一切ありません。正しいと思うこと、売れること、美しいと思うこと、これらは完全には交わらないでしょう。それでも交えようとするのがブランド経営であり、その悩みを持てること自体が、とても贅沢なことなんです。
──BIを策定すべきだと言えるフェーズはあるのでしょうか。
川田 フェーズはあると思っています。ブランドを長く続けるには、まず売れるかどうかが切り離せません。だからこそ、まずは数値の強さがあり、そのうえでブランドの意志の濃度を高めていくことが大事です。
鄭 私も同じ考えです。新ブランドの立ち上げフローを一緒に考えたときも、最初に意志を決めすぎないほうがいいとはっきりお伝えしました。意志があっても、お客様に喜んでいただけなければ、その意志は解釈し直すべきです。まずは一つのプロダクトをお客様に受け入れていただき、予算を確保することが大切です。
──その先で、意志を売上にどうつなげていくのでしょう。
鄭 私は「2つのルート」を持つべきだと考えています。また、お客様の消費モデルを6つに分けて拡張していく考え方もあります。ただ、意志と売上のつなぎ方はブランドごとに異なるので、そういった型をお渡しするだけでは不十分だと思っています。セミナーでは、HRCさんの取り組みを一つの事例として、皆さんが抱えている課題やご意見もぜひお聞かせいただきながら、一緒に考えていきたいですね。
【2026年11月20日開催】目先の売上か、長期のブランド価値か。── HRCが向き合ったブランド経営の意思決定

本セミナーでは、HRCとNineCraftの約3年間の実践をもとに、「目先の売上」と「長期のブランド価値」がぶつかったとき、何を基準に判断するのかを考えます。
さらに、ブランドの意志をマーケティングや組織、日々の意思決定にどう落とし込むのか。
「売上か、ブランドか」という二者択一ではなく、事業を成長させながらブランドを育てていくために、経営者やブランド担当者は何を考え続けるべきなのか。HRCとNineCraftの実践と葛藤を通じて、ブランド経営における「正解」ではなく、数字とブランドのあいだで意思決定し続けるための視点を探ります。
【詳細・申し込みはこちらから】
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