「おすすめ」だけで終わらない! 中川政七商店のリアルタイム・レコメンド高度活用アプローチ
「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げる中川政七商店。2026年2月期の売上高は100億円を突破し、4期連続で過去最高業績を更新した。そのEC戦略を支えるのが、シルバーエッグ・テクノロジー株式会社のAI搭載リアルタイム・レコメンドサービス「アイジェント・レコメンダー」だ。商品提案にとどまらず、特集ページ、メルマガ作成、商品選定にもリアルタイムで把握したユーザーの行動データを活用し、レコメンド経由の売上比率が従来の2倍超に伸長したという。株式会社中川政七商店 経営企画室の中田勇樹氏に、「アイジェント・レコメンダー」の具体的な活用方法について聞いた。
少量多品種ECの課題を「リアルタイム・レコメンド」で解決
──まず、御社の事業概要を教えてください。
1716年に奈良で創業した会社です。「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げ、工芸をベースにした生活雑貨の製造小売と、工芸メーカーへの経営支援を主な事業としています。
製造小売事業では、社内の約15名の商品デザイナーが商品を企画し、全国約800社の工芸メーカーとともにものづくりを行っています。そこで生まれた商品を、全国70店舗弱の直営店やECサイトを通じて、お客様にお届けしています。
──ECサイトで取り扱う商品の特徴と、従来抱えていた課題について教えてください。
当社のECサイトでは常時約4000点の商品を取り扱っていて、定番商品だけでなく、季節ごとに商品が入れ替わることが特徴です。手仕事によるものづくりの特性上、1品番の製造数が限られるものもよくあり、「少量多品種」で構成されています。
そのため、一般的なECサイトのように売れ筋商品に販売施策を集中させるだけでは、すべての商品の魅力を十分に伝えられません。特定の商品を目的に訪れたお客様が、そのほかの商品を知る機会が少なく、魅力的な商品が埋もれてしまうことが課題でした。また、在庫が限られている商品に対し、従来型のステップメールなどを設計しても、配信数が少なく、施策にかける工数に見合う効果を得にくいという問題もありました。
──そうした少量多品種ならではの課題を解決するため、2023年に「アイジェント・レコメンダー」を導入されたのですね。
はい。以前は他のツールを利用していたのですが、複数を比較・検討する中で、特に魅力を感じたのが「アイジェント・レコメンダー」の圧倒的なリアルタイム性です。一般的なレコメンドツールは、1日1回のバッチ処理によってデータを更新します。この場合、同じ日にサイトを再訪したユーザーの関心が変化していても、おすすめ商品の内容にすぐ反映されません。一方、「アイジェント・レコメンダー」は、ユーザーのサイト内での行動をリアルタイムに学習し、おすすめの内容を更新できます。商品の入れ替わりが多い当社にとって、この即時性は非常に重要でした。
加えて、プロダクトがシンプルで使いやすく、細かなルール設定やチューニングに手間がかからない点も、自社の運用体制に適していると判断しました。

「中川政七商店」公式オンラインショップ(特集「ひとしおの、一枚。」ページより)
ECサイトの主要導線に組み込み、売上貢献度は2倍以上に
──現在、ECサイトでは「アイジェント・レコメンダー」をどのように活用していますか。
ECサイトのさまざまな場所に、レコメンド機能を自然な形で組み込んでいます。
例えばトップページでは、商品だけでなく、複数の商品を紹介する特集ページや読みもの(コラム)もレコメンドの対象としています。顧客の行動に応じて表示内容を変えることで、商品だけでなくコンテンツを含めたサイト内の回遊を促しています。
特に大きな成果が出ているのが、商品カテゴリごとの「ランキング」です。この「ランキング」は閲覧する方の行動や興味・関心に合わせた商品が表示されるかたちになっていて、現在このランキングはレコメンドにおける購入経路の6割以上を占める主要な導線となっています。また、サイト内を回遊する際に表示するポップアップにもレコメンド商品を活用するなど、接点を広げています。
──特集ページの制作にも「アイジェント・レコメンダー」を活用しているそうですね。
レコメンドのデータは、顧客への商品提案だけでなく、サイトの編集やコンテンツ制作にも活用しています。すべてのページではありませんが、一部の特集ページを制作する際は、まずSEOを考慮しつつAIを使ってテーマを検討します。その後、顧客の行動データをもとに、「アイジェント・レコメンダー」のパーソナライズデータを活用し、掲載する商品やページ構成の候補を作成します。
特集ページに掲載する商品の選定にもレコメンドデータを活用しています。担当者の経験や感覚だけでは見落としがちな関連商品をデータをもとに提示することで、お客さまにとって買い回りしやすい商品の組み合わせ提案につなげています。
最終的には担当者が、ブランドのトーン&マナーや掲載内容を確認・調整した上で公開します。当社で運用しているAIと「アイジェント・レコメンダー」によるレコメンドデータを活かすことで、制作業務を効率化しながら、人間ならではの編集視点も生かしています。
──レコメンドデータ活用による成果はいかがですか。
ECサイト全体の売上のうち、レコメンド枠を経由して購入に至った売上は平均12%を占めています(※1)。以前のツールを利用していた時期は約5%だったため、2倍以上に拡大しました。おすすめ商品の精度が向上したことで、顧客の新たな商品との接点が生まれ、レコメンド経由の売上貢献度も大きく高まっています。
※1:レコメンド枠をクリックしたユーザーの購入金額と、レコメンドをクリックしてないユーザーの購入金額の比較

「中川政七商店」公式オンラインショップの特集ページは、「衣」「食」「住」などのカテゴリごとにテーマを設け、それぞれに沿った商品を紹介(写真は「特集ページ」より)
自社のAIと組み合わせ、メルマガ制作を効率化
──メールマガジンの作成においても、自社のAIと「アイジェント・レコメンダー」を組み合わせて活用されているそうですね。
当社では顧客を購買傾向に応じて5つのクラスタに分類(※2)し、それぞれに合わせたメルマガを週4回、月20本程度配信しています。これをすべて手作業で制作すると、担当者の負担は非常に大きくなります。そこで当社のAIと「アイジェント・レコメンダー」を組み合わせ、コンテンツ選定から原稿作成までを効率化する仕組みを構築しました。
例えば「アパレルへの関心が高いクラスタに向けた4月のメルマガを作成する」といった条件を設定すると、AIが過去の反応や季節性を分析します。そこに「アイジェント・レコメンダー」が選定した商品候補を組み合わせて、最適な順番でコンテンツを構成します。AIがメール原稿やHTMLの作成を支援し、最終的に担当者が確認・調整して配信する流れです。
──成果はどのように表れていますか。
5つのクラスタに合わせて配信したメルマガは、一斉配信と比べて総クリック数が120~150%に向上しました。特に、複数回の購入実績を持つ顧客から高い反応が得られています。また、同じレイアウトで、コンテンツの順番が同一の場合とAIによってクラスタごとに順番を調整した場合を比較したところ、後者のクリック率は約120%となりました。
制作工数も大幅に削減しています。従来は1本当たり約60分かかっていた作業が15分程度に短縮され、同じ1時間でクラスタごとにパーソナライズしたメルマガを制作できるようになりました。
ただし、すべてをAIに任せているわけではありません。文章の表現やブランドの世界観については、担当者が最終確認をしています。ブランドらしさを維持するため、AIで効率化を図りつつ、人間が創造的な業務に集中できる運用を重視しています。
※2 参考記事:中川政七商店の「クラスタリング」と「生成AI」を活用したブランドコミュニケーション(ECのミカタ)

株式会社中川政七商店 経営企画室 中田勇樹氏
ハイパーパーソナライゼーションでECの可能性を広げる
──将来的に、ECサイトにおけるパーソナライズをどのように進化させていく考えですか。
短期的には、顧客の購買履歴や行動履歴を学習した「AIコンシェルジュ」の導入を進めていきたいと考えています。商品選びの相談から返品ルールに関する問い合わせまで、顧客一人ひとりに合わせた接客を目指します。
中長期的には、さらに高度な「ハイパーパーソナライゼーション」の実現を視野に入れており、将来的には単におすすめ商品を提案するだけでなく、来訪者の目的や関心に応じて、ECサイトのデザインやコンテンツ構成そのものがリアルタイムに変化する世界を想定しています。
一方で、パーソナライズが進みすぎることで、思いがけない商品との「偶然の出会い」が失われるのではないかという懸念もあります。その点については、担当者自身が商品を実際に使った感想をもとにした読み物を用意することや、AIコンシェルジュとの対話を通じて新たな選択肢を提示することで補完できると考えています。最適化だけを追求するのではなく、実店舗で経験するような偶然や発見を体感できることが重要です。
──今後の展望をお聞かせください。
今後は、Web上の閲覧履歴などの定量データだけでなく、AIコンシェルジュとの会話から得られる定性的なデータも、顧客理解に活用できる可能性があります。中川政七商店は、こうした新たなデータ活用にも挑戦し、その知見を産地のメーカーにも還元していく考えです。ECにおける顧客体験の進化を通じ、「日本の工芸を元気にする」というビジョンの実現を目指していきます。


